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AIエージェントに性格を設定しても、人格は固定できない

木村 優志

AIエージェントに性格を設定しても、人格は固定できない

対話AIやアバターをつくるとき、「親しみやすい性格にしたい」「落ち着いた案内役にしたい」と考えることがあります。

そこで、システムプロンプトに「あなたは親しみやすく、共感的なアシスタントです」と書く。しかし実際に使ってみると、思ったほど人格が一貫しないことがあります。

あるときは丁寧すぎる。別の利用者には急にくだけた話し方になる。相談役のはずが、質問の仕方によっては事務的な回答だけを返す。

これは、LLMの性格が一つの設定値だけで決まるわけではないからです。AIがどう振る舞うかは、与えた性格だけでなく、役割、話し方、相手との関係、会話の状況によって変わります。

「性格」と「対話で見える人格」は違う

AIに与える性格は、対話の基調をつくれます。たとえば、共感を優先する、簡潔に話す、慎重に断る、といった傾向です。

一方、利用者が感じる人格は、性格設定だけでは決まりません。

同じ「親しみやすい」AIでも、商品を説明する営業担当として話すのか、悩みを聞く相談役として話すのかで、期待される振る舞いは違います。丁寧語を使うのか、くだけた表現を使うのかでも印象は変わります。利用者が初対面なのか、何度も話している相手なのかも重要です。

つまり、利用者に届く人格は、次の要素の組み合わせです。

基本的な性格
  + その場で担う役割
  + 話し方・表現形式
  + 利用者との関係
  + 直前までの会話と状況

「キャラクター設定を入れたのに、思ったように振る舞わない」ときは、性格以外の条件が未設計であることが多いのです。

役割と話し方が、AIの振る舞いを変える

日本音響学会2026年秋季研究発表会では、長尾萌氏らが、LLMのパーソナリティと役割・表現形式の関係を扱った発表を行っていました。

「大規模言語モデルのパーソナリティ:役割・表現形式とのモデル内・モデル間相互作用」(3-13-14)では、Big Fiveの特性を用い、LLMが示すパーソナリティを分析しています。

この発表が興味深いのは、性格を与えた場合だけでなく、AIに与える役割や表現形式、対話相手との組み合わせにも目を向けている点です。

たとえば、同じモデルでも、営業担当として話すのか、顧客として話すのかで対話の振る舞いは変わります。「簡潔に話す」「丁寧に話す」「くだけて話す」といった表現形式も、相手が受け取る人格に影響します。

対話AIの性格をコントロールしたいなら、「親しみやすく」と一行で指定するよりも、誰として、誰に対して、何を達成するために、どのように話すのかを具体的に設計する方が重要です。

設定すべきは、性格ではなく対話の役割

実際に対話AIを設計するときは、性格設定を次の五つに分けると整理しやすくなります。

1. 変わりにくい基調

AIがどの場面でも守る態度です。たとえば、誠実である、分からないことを断定しない、相手を急かさない、といったものです。

これは、ブランドや安全性に関わるため、短い会話でも長い会話でも変えない方がよい部分です。

2. その場の役割

相談役、受付、営業担当、学習支援者、ゲーム内の案内役では、会話の目的が違います。

「親しみやすい」という基調が同じでも、受付なら必要な情報を順番に聞く必要があります。相談役なら、すぐに結論を出すより話を整理する必要があるかもしれません。役割ごとに、優先する行動と避ける行動を定義します。

3. 話し方

敬語か常体か、短く答えるか、たとえ話を使うか。こうした表現形式は、内容以上にAIの印象を左右します。

ただし、文末を統一するだけでは十分ではありません。質問の頻度、相づちの入れ方、説明の順序、断るときの表現まで含めて決めると、会話の一貫性が上がります。

4. 利用者との関係

初回の対話と、利用者の好みや目的を理解している継続利用の対話では、同じ振る舞いが最適とは限りません。

継続利用を前提にするなら、どの情報を覚え、どの情報は毎回確認するかを決める必要があります。関係性を深めようとして、利用者が望まない情報を持ち出すと、不自然さや不信感につながります。

5. 状況に応じた切り替え

雑談、手続き、トラブル対応、重要な判断を含む相談では、同じ話し方を続けるべきではありません。

たとえば、普段は親しみやすい案内役でも、個人情報や費用が関わる場面では、根拠を明確にし、確認を促す話し方へ切り替える必要があります。

プロンプトではなく、シナリオで評価する

対話AIの人格を評価するとき、「この応答は自然か」を一度見るだけでは足りません。

同じAIに、役割、利用者、話し方、会話の状況を変えたシナリオを与えます。

  • 初対面の利用者が、短い質問をする
  • 継続利用者が、以前と異なる希望を伝える
  • 利用者が苛立っている
  • AIが必要な情報を持っていない
  • 雑談の途中で、正式な手続きへ移る

そのとき、基調となる態度は保たれているか。役割に必要な行動を取れているか。場面に合わない親しさや断定が出ていないかを確認します。

このように評価すると、「性格を設定したか」ではなく、「利用者が想定した体験を得られたか」を見ることができます。

人格は固定するものではなく、設計し続けるもの

LLMの出力には揺らぎがあります。会話の文脈も、相手も、入力の仕方も毎回異なります。そのため、完全に固定された人格をつくることは現実的ではありません。

目指すべきなのは、どんな場面でも同じ台詞を返すAIではなく、基本的な態度を保ちながら、役割と状況に合わせて自然に振る舞えるAIです。

対話AIの体験は、モデルの性能だけでは決まりません。性格、役割、表現、関係性、タイミングをどこまで具体的に設計し、実際の利用シナリオで評価するか。その積み重ねが、「話せるAI」を「また話したいAI」へ変えていきます。

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