音声AILLMリアルタイム音声対話

S2S LLMを比較する:Gemini Live、GPT-Realtime、Qwen Omni Realtime、Grok Voice Agent API

木村 優志

リアルタイム音声対話を実装するとき、音声認識、LLM、音声合成を個別につなぐ構成だけでなく、音声を入力して音声で応答するSpeech-to-Speech LLM(S2S LLM)を選べるようになりました。

候補になるのは、GoogleのGemini Live、OpenAIのGPT-Realtime、Alibaba CloudのQwen Omni Realtime、xAIのGrok Voice Agent APIです。どれも低遅延の音声対話を掲げていますが、日本語で使うと、声の自然さ、発音、割り込みへの反応、APIコストに明確な違いがあります。

先に結論を書くと、今回の検証では、もっとも自然に会話できたのはGPT-Realtime、コストと品質のバランスがもっとも良かったのはGemini Liveでした。

Qwen Omni Realtimeは安価ですが、今回試した日本語会話では中国語の訛りを感じる発音が残りました。Grok Voice Agent APIは分単位で費用を見積もりやすく、ツール連携も充実しています。一方、総合的に見ると、現時点で日本語の業務システムへ最初に組み込む候補はGemini Liveだと考えています。

比較したモデル

今回、次のモデル群を比較対象としました。

  • Google Gemini 3.1 Flash Live Preview
  • OpenAI GPT-Realtime-2.1
  • OpenAI GPT-Realtime-2.1 mini
  • Alibaba Cloud Qwen3.5-Omni-Flash-Realtime
  • xAI Grok Voice Agent API(grok-voice-think-fast-2.0)

本記事では、Realtime系の軽量版であるGPT-Realtime-2.1 miniを比較しています。GPT-5 nanoなどのテキストモデルとは別物です。

また、各サービスはプレビュー中のモデルや更新されるエイリアスを含みます。モデル名、品質、価格は今後変わる可能性があります。

話者数と言語対応

音声モデルでは、対応言語数だけでなく、選べる話者の数と、その話者が対象言語を自然に発音できるかが重要です。2026年8月時点の公式情報を整理すると、次のようになります。

Gemini Live

  • プリセット話者:30種類
  • 対応言語:Live APIのNative Audioで97言語
  • 日本語:対応

Live APIのNative AudioモデルはGemini TTSの話者を利用でき、Zephyr、Puck、Kore、Aoedeなど30種類が公開されています。Native Audioは入力に応じて言語を自動選択し、言語コードを明示的に固定する方式ではありません。なお、リアルタイム翻訳は別モデルで70以上の言語に対応します。

GPT-Realtime-2.1/GPT-Realtime-2.1 mini

  • プリセット話者:10種類
  • 対応言語:一般のRealtime音声対話について、公式な固定言語数の記載なし
  • 日本語:対話可能。システム指示で日本語へ固定する運用が必要

選択できる話者はalloy、ash、ballad、coral、echo、sage、shimmer、verse、marin、cedarの10種類です。OpenAIは品質面でmarinまたはcedarを推奨しています。専用のRealtime翻訳モデルは70以上の入力言語と13の出力言語に対応しますが、通常の音声エージェント用モデルとは仕様が異なります。

Qwen3.5-Omni-Flash-Realtime

  • プリセット話者:56種類
  • 対応言語:29言語と中国語8方言
  • 日本語:対応

今回の4サービスでは、公開されているプリセット話者がもっとも多い構成です。Tina、Serena、Harveyなどに加え、北京語、四川語、広東語など中国語圏の話者も充実しています。各プリセットは日本語を対応言語に含みますが、話者の学習特性は同じではありません。日本語の発音品質は話者ごとに試す必要があります。

Grok Voice Agent API

  • プリセット話者:26種類(当初の5種類に2026年7月追加の21種類を加えた数)
  • 対応言語:Speech-to-Speech APIで20以上
  • 日本語:対応。jaのLanguage Hintを指定可能
  • カスタム音声:短い参照音声から作成可能

GrokはAra、Eve、Leoなどの初期話者に加え、用途別の新しい話者を追加しています。最新の利用可能な話者一覧はAPIのGET /v1/tts/voicesでも取得できます。

話者数の多さは選択肢の多さを意味しますが、日本語として自然な選択肢が同じ数だけあるわけではありません。業務導入では、男女や声質を選ぶだけでなく、固有名詞、数字、敬語、英単語を含む日本語原稿をすべての候補話者で比較する必要があります。

何を「性能」として評価するか

音声対話では、テキストLLMのベンチマークスコアだけを見ても、使いやすさは分かりません。今回重視したのは次の点です。

  1. 日本語の発音と声の自然さ
  2. 応答開始までの体感遅延
  3. ユーザーが途中で話したときの割り込み
  4. 会話の文脈と指示の維持
  5. APIコストと費用の予測しやすさ
  6. Function Callingなど業務システムとの接続性

同じモデルでも、選ぶ声、システムプロンプト、VAD(発話区間検出)、ネットワーク、音声入出力の実装によって結果は変わります。以下は、日本語のリアルタイム対話を試した際の実装者としての評価です。絶対的な順位ではなく、導入候補を絞るための比較として読んでください。

GPT-Realtime-2.1:もっとも自然だが、コストが高い

声の自然さだけで選ぶなら、今回もっとも良かったのはGPT-Realtime-2.1でした。

単語を正しく読み上げるだけではなく、文脈に合わせた間、強調、言い直しが自然です。ユーザーが短く相槌を打った場合と、明確に割り込んだ場合の違いも扱いやすく、AIと電話しているというより、人と会話している感覚に近づいています。

一方、業務導入で問題になるのが価格です。2026年8月時点の公式価格では、音声入力が100万トークンあたり32ドル、音声出力が64ドルです。今回比較したトークン課金のモデルでは明確に高い水準です。

短時間のデモでは許容できても、コールセンター、予約受付、常時接続のアシスタントのように会話時間と同時接続数が増える用途では、月額費用に大きな差が出ます。

向いている用途

  • 声の印象そのものが製品価値になるサービス
  • 高単価な接客、コンシェルジュ、営業支援
  • まず最高品質の体験を検証したいPoC

注意点

  • 音声入出力の単価が高い
  • 会話時間と利用者数を想定した費用試算が不可欠

GPT-Realtime-2.1 mini:OpenAIの実装資産を保ちながら費用を抑える

GPT-Realtime-2.1 miniは、同じRealtime系の実装方法を使いながらコストを抑えたい場合の候補です。

公式価格は、音声入力が100万トークンあたり10ドル、音声出力が20ドルです。フルモデルより大幅に安くなりますが、それでもGemini Liveより高い設定です。

すでにOpenAI Realtime APIを使った実装や運用基盤があり、移行コストを増やしたくない場合には合理的です。一方、これから日本語音声対話を新規に作る場合、価格差を含めるとGemini Liveも同時に評価すべきです。

向いている用途

  • OpenAI Realtime APIの既存実装がある
  • フルモデルほどの品質より、同時接続数を優先する
  • OpenAIのツール連携や開発環境を統一したい

Gemini Live:コストと日本語品質のバランスが良い

Gemini Liveは、GPT-Realtimeほどではないものの、日本語の発音と会話のテンポは実用的です。割り込み可能な音声対話、Function Calling、継続したセッションなど、業務アプリケーションに必要な機能もそろっています。

Gemini 3.1 Flash Live Previewの音声価格は、入力が100万トークンあたり3ドル、出力が12ドルです。音声出力はGPT-Realtime-2.1の5分の1以下で、miniよりも低価格です。

今回の比較では、GPT-Realtimeのほうが声の自然さでは上でした。しかし、その差とAPI価格の差を業務価値に置き換えると、多くの用途ではGemini Liveの品質で十分です。

たとえば、社内業務の音声入力、予約や問い合わせの一次対応、機器の音声操作、専門スタッフを支援する対話UIでは、最高に人間らしい声よりも、応答の安定性、ツール連携、継続運用できる費用が重要です。

その意味で、Gemini Liveは品質を大きく妥協せず、利用量を増やしやすい選択肢です。

向いている用途

  • 日本語音声対話を新規に開発する
  • 品質とランニングコストの両方を重視する
  • 音声だけでなく、カメラや画面も含めた対話へ発展させたい

注意点

Gemini Liveは単純な分課金ではありません。セッション内に保持された音声コンテキストがターンごとに再処理・課金されるため、長い会話では費用が単純に時間へ比例しない場合があります。

長時間セッションではContext Window Compressionを設定し、保持する履歴を制限する必要があります。文字起こしを同時に有効化した場合は、音声トークンに加えて文字起こしのテキストトークンも課金対象になります。

単価が安いからといって、セッション管理なしで常時接続すれば必ず安くなるわけではありません。実際の会話ターン数を記録して試算することが重要です。

Qwen3.5-Omni-Flash-Realtime:安価だが、日本語の発音は事前検証が必要

Qwen3.5-Omni-Flash-Realtimeは、価格面で魅力があります。

Alibaba Cloudの北京リージョンにおける公式価格は、音声入力が100万トークンあたり18人民元、音声出力が72人民元です。シンガポールリージョンでは入力22.48人民元、出力89.18人民元で、リージョンによって単価が異なります。

公式仕様では日本語に対応しています。実際、日本語の内容を理解し、日本語で応答することはできました。しかし、今回使用した音声と設定では、発音に中国語の訛りを感じる箇所がありました。

ここは「Qwenは日本語を話せない」という意味ではありません。声の選択やモデル更新によって改善する可能性があります。ただし、日本語対応と、日本の利用者が違和感なく聞ける発音は別の評価項目です。

音声UIでは、回答内容が正しくても、固有名詞、数字、敬語のアクセントに違和感があると製品全体の信頼感が下がります。日本語の顧客対応へ使うなら、実際の業界用語と利用者を使った試聴評価が必要です。

向いている用途

  • APIコストを最優先する
  • 中国語を中心とした多言語対話
  • 日本語音声を十分に評価・調整できる開発体制がある

注意点

  • 日本語対応という仕様だけで発音品質を判断しない
  • 利用リージョン、通貨、データの取り扱い条件を確認する

Grok Voice Agent API:分課金で予測しやすく、ツール連携が特徴

Grok Voice Agent APIの現行モデルgrok-voice-think-fast-2.0は、WebSocketによるリアルタイム音声対話に対応しています。

2025年12月の発表時には、音声1分あたり0.05ドルと案内されていました。2026年8月時点の現行モデルは1分あたり0.08ドルで、テキスト入力は1メッセージあたり0.004ドルです。旧モデルの価格をそのまま試算に使わないよう注意が必要です。トークン数ではなく音声時間を基準に見積もれるため、電話や受付のように平均通話時間が分かる業務では予算を立てやすい特徴があります。

日本語は公式の対応言語に含まれ、jaのLanguage Hintも指定できます。Web検索、X検索、Function Calling、MCPなどを音声対話から使える点も特徴です。また、OpenAI Realtime APIと互換性を意識した仕様のため、既存実装から比較的移行しやすい構成です。

xAIは発表記事で、初回音声まで1秒未満、Big Bench Audioで1位、OpenAI Realtime APIとのブラインド評価でも発音・アクセント・韻律で優位だったと説明しています。ただし、これは提供元による評価です。今回の日本語試用ではGPT-Realtimeをもっとも自然と評価しており、用途と音声ごとに自社で比較する必要があります。

今回の結論ではGemini Liveを選びましたが、検索や外部ツールを多用する音声エージェントや、分単位で原価を管理したいサービスでは、Grok Voice Agent APIも比較対象に残ります。

APIコスト比較

2026年8月時点の公開価格を、音声入出力に絞って整理します。通貨と課金単位が異なるため、表の金額をそのまま「1分あたり」で比較することはできません

サービス/モデル音声入力音声出力料金体系補足
Gemini 3.1 Flash Live Preview$3 / 100万トークン
(目安 $0.005 / 分)
$12 / 100万トークン
(目安 $0.018 / 分)
音声トークン課金長いセッションでは保持中の音声コンテキストがターンごとに再課金される
GPT-Realtime-2.1$32 / 100万トークン$64 / 100万トークン音声トークン課金入力・出力とも今回の比較では最高単価
GPT-Realtime-2.1 mini$10 / 100万トークン$20 / 100万トークン音声トークン課金フルモデルより低価格だが、Gemini Liveより高い
Qwen3.5-Omni-Flash-Realtime
(北京)
18元 / 100万トークン72元 / 100万トークン音声トークン課金シンガポールでは入力22.48元、出力89.18元。リージョンで異なる
Grok Voice Agent API
(think-fast-2.0)
音声時間に含む音声時間に含む$0.08 / 分テキスト入力は別途 $0.004 / メッセージ

5分の会話でどう読むか

Grok Voice Agent APIだけは、音声の送受信を合算した時間で課金されるため、5分通話なら音声部分は単純計算で約$0.40です。

Gemini、OpenAI、Qwenは音声トークン課金なので、会話時間だけでは正確な原価を出せません。特に以下で変わります。

  • ユーザーとAIがそれぞれ話した時間
  • 無音区間を送っているか
  • 1回の会話で何ターン往復したか
  • 会話履歴を再処理する設計か
  • 文字起こし、検索、Function Callingを併用するか

Gemini Liveの目安単価を使うと、音声入力1分と音声出力1分を新規に処理する部分だけで約$0.023です。ただし、これはセッション履歴の再処理、文字起こし、テキストやツール呼び出しを含まない値です。長時間セッションの費用をこの数字だけで見積もるのは危険です。

実装前のPoCでは、同じ20〜50件の会話シナリオを各モデルへ流し、プロバイダが返す使用量と実際の請求額から「1セッションあたりの原価」を計算するのが確実です。

価格だけを比較してはいけない

S2S LLMの料金体系は統一されていません。

  • Gemini、OpenAI、Qwenは主に音声トークン課金
  • Grok Voice Agent APIは音声時間とテキストメッセージによる課金
  • リージョンによって価格が変わるサービスがある
  • 会話履歴の再処理や文字起こしが追加費用になる場合がある
  • 無音、割り込み、再接続をどう数えるかで実際の原価が変わる

したがって、「100万トークンの単価が安い」という理由だけでは選べません。実際の利用シナリオで、次の値を記録する必要があります。

  • 1セッションの平均時間
  • ユーザーとAIが話す時間の比率
  • 1セッションの平均ターン数
  • 割り込みと聞き返しの回数
  • 同時接続数
  • ツール呼び出しと文字起こしの利用量

5分の会話音声を一度流すだけの試験より、実際の業務シナリオを20〜50件実行し、請求メタデータから1セッションあたりの原価を比較するほうが有効です。

現時点の選び方

今回の比較を用途別にまとめると、次のようになります。

自然さを最優先するならGPT-Realtime-2.1

声の間合い、抑揚、会話の滑らかさは今回もっとも優れていました。APIコストを製品単価へ転嫁できる、高付加価値な用途に向いています。

コストと性能のバランスならGemini Live

日本語品質が実用域にあり、音声入出力の価格も低く抑えられています。新規の業務向け音声対話では、最初に検証したいモデルです。

OpenAIの既存資産を活かすならGPT-Realtime-2.1 mini

フルモデルから費用を下げながら、APIや運用基盤を共通化できます。

価格を最優先するならQwen Omni Realtime

低価格は魅力ですが、日本語の発音は実ユーザーによる確認が必要です。中国語を含む多言語用途では評価が変わる可能性があります。

分単位の原価管理とツール連携ならGrok Voice Agent API

通話時間から費用を見積もりやすく、検索やFunction Callingを使うエージェントの候補になります。

結論:最初の本命はGemini Live、品質上限の確認にはGPT-Realtime

S2S LLMの選定では、デモで一番驚いたモデルと、本番で使い続けられるモデルが同じとは限りません。

GPT-Realtime-2.1は、今回もっとも自然でした。一方で、利用時間と同時接続数が増えたときのAPIコストは無視できません。

Qwen Omni Realtimeは安価ですが、今回の日本語評価では発音に課題が残りました。音声対話では、意味が通じるだけでなく、利用者が毎日聞き続けられる声かどうかが重要です。

Gemini Liveは、自然さ、遅延、機能、コストのどれか一つで常に首位になるわけではありません。しかし、業務システムとして必要な水準を満たしながら、利用量を増やせる価格に収まっています。

そのため、現時点ではGemini Liveを本命としてPoCを作り、声の自然さが事業価値へ直結する場合にGPT-Realtime-2.1と比較する進め方が現実的です。

ただし、最終的に見るべきなのはモデルの一般評価ではありません。実際の利用者、業界用語、騒音、通話時間、許容コストを含んだ評価セットです。S2S LLMも、モデル名より自社の会話データで選ぶ必要があります。

参考資料

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